小説
俺には周りの人間に秘密にしている事がある。家族、友人、職場の人間、勿論妻にも決して知られてはならない。なぜなら俺の男としての沽券に関わる事だからだ。端的に言うとそれは女装癖である。まさか30歳を目前にして女装に目覚めるとは思ってもみなかった…
27歳。この年齢を皆さんはどう思うだろうか。若いし、まだこれからと思う人は多々いるとは思うが、私は若者と乖離しだす魔の年齢、それが27歳だと考えている。言うまでもないが私は27歳、何の取り柄もない男である。 27歳のある夏の日の事。久々にすっきり目…
飲み会はあまり飲めない者にとってはこの上ない苦痛な時間です。それが会社の飲み会なら、なおの事です。仕事中の会話とはまた違った難しさ、集団での会話のやりにくさが存在するのです。 先日、新入社員の歓迎会という事で、その飲み会に参加した時の事です…
邪気眼の下りは自然と脳裏で再生された感じだった。俺は決して厨二病ではないが、この年にもなって邪気眼がどうのだとか、神のご加護などの言葉が出てくるとは思わなかった。自分でも無意識だったこれらの思考が、病気で呼び起こされたのかもしれないが、と…
「綺麗さっぱり無くなっていますね」 「そんな馬鹿な」 聞けば脳にできた腫瘍は跡形なく消えているという。レントゲンを見ながら医師にそう告げられた。病院での定期検査、突然の事である。 「先生、俺の寿命は長くなかったのではないですか」 「その筈だっ…
無数の人間がせわしなく移動する東京。彼女を見かけたのは本当に偶然だった。間違いないと思った。今すれ違った女性は3年前にアイドルを引退した五十嵐葵だ。俺は彼女が所属していたアイドルグループのファンクラブに入っていたが、彼女の卒業と同時に退会…